全国47都道府県、水の硬さランキング
水の「硬度」は、水1リットルに含まれるカルシウム・マグネシウムの量。WHOの基準では120mg/L未満が軟水とされ、日本の水道水は全国的に見て軟水寄りが多い。ただし県内でも浄水場ごとにばらつきが大きいため、ここでは各都道府県の中央値(典型的な1本の蛇口の値に近い)で比較する。
都道府県別・水道水硬度(中央値、mg/L)
軟水寄り
硬水寄り
硬水クラスターは、関東平野と沖縄。千葉(83)・埼玉(72)・神奈川(68)・東京(63)・茨城(62)が上位を占める。関東平野は地下水依存度が高く、堆積平野の地層を通る過程でカルシウム分を多く含みやすい。沖縄も琉球石灰岩(サンゴ由来)の地質を通る水がミネラル分を溶かし込み、硬水寄りになる。
軟水クラスターは、山がちな内陸・中国地方。岐阜(19)・愛知(21)・福島(23)・高知(24)・広島(25)など、花崗岩質の山地から流れる伏流水はミネラル分が少なく、軟水になりやすい。実はこの違い、日本酒の味にも表れている。兵庫県・灘の「宮水」は硬水で力強い"男酒"を生み、広島県・西条の蔵元は軟水醸造の技術を確立してなめらかな"女酒"を生み出した——水の硬さは、地域の酒文化の分かれ目でもある。
硬水の県は、心臓病で死ぬ人が少ないのか?
硬水にはカルシウム・マグネシウムが多く、心血管疾患のリスクをやや下げるという疫学的知見が国内外にある。だとすれば、硬水の県ほど心疾患の死亡率が低いはず——横軸に硬度(中央値)、縦軸に心疾患による死亡率(人口10万対・令和3年)を置いて、47都道府県を重ねてみる。
水道水硬度 × 心疾患死亡率(粗死亡率・都道府県別)
全国平均より死亡率が高い
全国平均より低い
見た目には、それらしい右下がりの傾向がある(r = —)。硬水の千葉・埼玉・神奈川・東京は軒並み心疾患死亡率が低く、逆に軟水寄りの青森・岩手・山形・高知は死亡率が高い側に集まっている。「硬水は心臓にいい」——このまま記事を終えたくなる、きれいな相関に見える。
からくりは、年齢構成だった
硬水クラスター(千葉・埼玉・神奈川・東京)には共通点がある。日本でもっとも高齢化率が低い、若い都市部だということだ。東京都の高齢化率は22.1%で全国最下位(最も若い)、千葉・埼玉・神奈川も下位7位以内(全国平均28.0%)。心疾患は高齢になるほど急増する病気なので、若い県は水質と関係なく「見かけの死亡率」が低く出る。
そこで、年齢構成の違いを補正した「年齢調整死亡率」(厚生労働省・令和2年)に差し替えて、同じ図を描き直す。
水道水硬度 × 心疾患死亡率(年齢調整後・都道府県別)
全国平均より死亡率が高い
全国平均より低い
傾きがほぼ消えた(r = —)。東京都を例にすると、粗死亡率では141.2(好成績に見える)だったのが、年齢調整後は149.8とほぼ全国平均(149.7)——水道水の硬さとは関係なく、単に「若い街だから見かけの数字が良かった」だけだった。
結論:硬水は、心臓病と関係なかった
硬水と心疾患のあいだに、実質的な関係はなかった。ただしこの回で伝えたいのは「硬水は健康に関係ない」という結論そのものより、都道府県別の統計を比べるときは、年齢構成の違いをまず疑うべきだということ。人口の若い都市部は、それだけで多くの「死亡率」が見かけ上良くなる。これは水質に限らず、地域の健康統計を読むときの一般的な注意点でもある。
データと方法について(正直に)
- 水道水硬度
- 日本水道協会「水道統計 水質編 第104-2号(令和3〜4年)」(全国8,926施設)を、都道府県別に転載しているサイトから収集。各都道府県内の市区町村・浄水場ごとの数値から中央値・平均値を算出した。転載サイト経由のデータであり日本水道協会の一次データベースそのものではない点、また施設数は都道府県により29〜537件と大きく異なる点に留意。県内のばらつきが大きい県(山形・鹿児島・青森・長野・沖縄など、最大最小の差200mg/L超)もあり、中央値はあくまで代表値。
- 心疾患死亡率(粗死亡率)
- 厚生労働省「人口動態調査(人口動態統計 確定数)」、令和3年(2021年)。心疾患(高血圧性を除く)、人口10万人あたり。年齢構成を補正していない実数。
- 心疾患死亡率(年齢調整死亡率)
- 厚生労働省「人口動態統計特殊報告」、令和2年(2020年)都道府県別年齢調整死亡率。男女別の値を単純平均して1県1値とした。
- 高齢化率
- 総務省統計局「国勢調査結果」、令和2年(2020年)10月1日現在。年齢不詳者を除く人口に占める65歳以上の割合。
- 相関について
- 本ページで計算した相関係数は、2つの統計の関連の強さを示す目安であり、因果関係を証明するものではない。粗死亡率での相関が年齢調整後に消えたことは、それ自体が「見かけの相関に注意すべき」という教訓であり、他の交絡因子(食生活・医療アクセス等)が残っている可能性も否定しない。