47都道府県を、1つの図に重ねる
横軸は20歳以上人口1人あたりの酒類消費量(国税庁・2016年)、縦軸は人口10万人あたりの肝がん年齢調整死亡率(国立がん研究センター・2010〜2012年平均)。もし「飲むほど肝臓が悪くなる」なら、右上がりの傾向が出るはずだが——。
酒類消費量 × 肝がん死亡率(都道府県別)
全国平均より肝がん死亡率が高い
全国平均より低い
新潟県——酒類消費量は全国7位(8.11L)と上位常連。ところが肝がん死亡率は全国最下位タイ(4.67、46位)。お酒をよく飲む県のはずが、肝臓の状態を示す指標では最も"健康"な部類に入る。
逆に佐賀県は、肝がん死亡率が全国ワースト1位(10.63)。だが酒類消費量は27位(6.42L)——全国平均をわずかに下回る、いたって"普通"の量。死亡率トップの県が、飲酒量では上位にすら入っていない。
なぜ関係ないのか——主犯は、別にいた
日本の肝硬変(肝がんの主な前段階でもある)の原因は、長年「ウイルス性肝炎」が圧倒的多数を占めてきた。日本肝臓学会の調査を追うと、その内訳がこの15年ほどで劇的に入れ替わっているのがわかる。
2007年
肝硬変の原因、ウイルス性肝炎由来が73.4%。アルコール性はわずか13.7%。B型・C型肝炎ウイルスの持続感染者は合わせて200万人超と推定され、輸血歴など過去の医療事情に起因する地域差が、都道府県ごとの肝疾患の分布を左右していた。
2014年
ウイルス性肝炎由来は49.7%まで低下。治療法の進歩とワクチン・検査体制の普及が背景にある。アルコール性は24.9%へ増加。
2018〜2021年(2023年発表)
ついにアルコール性が35.4%で1位に。C型肝炎は23.4%まで縮小し、B型肝炎8.1%と合わせても、ウイルス性はアルコール性を下回った。
今回のデータ(2010〜2012年)は、まさに「主犯がウイルスからアルコールへ入れ替わる、その途中」の時期にあたる。都道府県別の肝がん死亡率が、当時の飲酒習慣と対応していなかったのは、地理的な分布を決めていたのが酒量ではなく、過去の感染歴という別の要因だったからだと考えられる。
ただし、これから変わるかもしれない
ここが今回、一番伝えたいことです。ウイルス性肝炎はもう主犯ではありません。アルコール性が肝硬変の原因の第1位になった今、これから先の肝疾患の地理的な分布は、実際の飲酒習慣と一致し始める可能性がある。今回「関係なかった」ことは、「これからも関係ない」ことを意味しない。
今は"誤解"でも、10年後には"的中"になっているかもしれない——このテーマは、続報の価値があるデータだと思う。
データと方法について(正直に)
- 酒類消費量
- 国税庁「酒類販売(消費)数量」、2016年度、20歳以上人口1人あたり(リットル)。購入・課税ベースの統計であり、個人の飲酒量そのものではない。東京都が1位である背景には、通勤・観光等の昼間人口が都内の飲食店で消費した分も計上される、という都市部特有の事情がある可能性が指摘されている。
- 肝がん死亡率
- 国立がん研究センターがん対策情報センター、2010〜2012年平均、75歳未満の年齢調整死亡率(人口10万対)。
- 肝硬変の成因の推移
- 日本肝臓学会の全国調査(2007年・2014年・2018〜2021年〔2023年発表〕)。肝硬変は肝がんそのものではなく、その主要な前段階となる病態。肝がん死亡率のデータとは調査主体・対象が異なる点に注意。
- 相関について
- 本ページで計算した相関係数は、あくまで2つの統計の関連の強さを示すもので、因果関係を証明するものではない。相関が無いことも、同様に「関係が無い」ことを証明するものではなく、他の要因(感染歴等)の影響が大きいことを示唆するに留まる。
- 出典
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都道府県別酒類消費量(とどラン/国税庁)
都道府県別肝がん死亡率(とどラン/国立がん研究センター)
肝硬変の成因の推移(兵庫医科大学/日本肝臓学会調査)