ご当地スポーツ事情——県民性の"思い込み"を検証する
本題に入る前に、寄り道をひとつ。同じ調査には、競技別の行動者率も記録されている。「その県らしいスポーツ」を探してみると、イメージ通りのものと、意外な"伝説の崩壊"が両方見つかった。
| 都道府県 | 種目 | 行動者率 | 全国平均 |
| 北海道 | スキー・スノーボード | 8.3% | 3.2% |
| 長野県 | スキー・スノーボード | 7.8% | 3.2% |
| 鹿児島県 | グラウンドゴルフ | 5.1% | 1.7% |
| 広島県 | つり | 12.2% | 7.8% |
| 愛知県 | ゴルフ | 9.0% | 6.9% |
北海道・長野のスキー、鹿児島・島根・鳥取に多いグラウンドゴルフ(高齢者に人気の競技)、広島のつりは、いずれもイメージ通りの結果。一方で、意外な"伝説の崩壊"もあった。
野球どころ、和歌山・高知の実際の参加率は平均以下。甲子園の強豪校を多く輩出してきた和歌山県(5.6%)・高知県(4.1%)の野球行動者率は、全国平均6.3%を下回る。実際の参加率1位は広島県(7.5%)、2位は北海道・沖縄県(ともに7.3%)——甲子園での強さ・野球文化の伝統と、実際に野球をする人の多さは、別の話らしい。
沖縄の「マリンスポーツ王国」イメージも、参加率で見ると水泳5.6%(全国平均5.7%)とほぼ横並び。海に囲まれているからといって、泳ぐ人が特に多いわけではなかった。
さて、ここからが本題。「スポーツ行動者率×健康寿命」の相関係数を、実際に47都道府県のデータで計算してみる。
スポーツ行動者率×健康寿命の相関係数(本ページで実測)
r = —
スポーツ行動者率 最高(東京)と最低(青森)の差
22.4pt
47都道府県を、1つの図に重ねる
横軸は「スポーツ行動者率」(総務省・社会生活基本調査2021年、過去1年にスポーツ・運動をした人の割合)、縦軸は「健康寿命」(厚生労働省2022年、日常生活に制限のない期間の平均・男女平均)。もし「運動する県ほど健康で長生き」なら、右上がりの傾向が出るはずだが——。
スポーツ行動者率 × 健康寿命(都道府県別)
全国平均より健康寿命が長い
全国平均より短い
東京都——スポーツ行動者率は74.5%で全国1位。ところが健康寿命は73.82年で、全国平均(約74.0年)とほぼ同じ水準にとどまる。もっとも運動している県が、もっとも健康で長生きな県ではなかった。
逆に静岡県は、健康寿命が75.22年で全国1位(男女とも単独トップ)。だがスポーツ行動者率は66.3%と、全国トップ10にも入らない水準。一番健康で長生きな県は、一番運動している県ではなかった。
弱い相関と、ゆるがない例外
相関係数はr ≈ —。ゼロではないが、強いとも言えない「弱い正の相関」。しかも、男女別に見るとこの関係はかなり違う顔を見せる。男性のスポーツ行動者率と健康寿命の相関はr=0.33。女性はr=0.14と、ほぼ無相関に近い。運動と健康寿命の結びつきは、少なくとも都道府県単位で見る限り、女性よりも男性の方がはっきり出ている。
沖縄県——スポーツ行動者率は65.8%と全国平均を上回る。それでも健康寿命は72.97年で、全国平均を1年以上下回る。かつて「長寿県」の代名詞だった沖縄が、運動習慣では平均以上でも、健康寿命では平均以下という現在地にある。
沖縄はかつて、都道府県別生命表のたびに男女そろって上位の常連だった。その評判が大きく揺らいだのが、2000年の「都道府県別生命表」だった。
長寿神話が崩れた日——沖縄26ショック
沖縄は、かつて都道府県別生命表のたびに男女そろって上位の常連だった。男性は1980年・1985年と連続で全国1位。ところが2000年の「都道府県別生命表」で、男性の順位は一気に26位まで転落した。当時「26ショック」と呼ばれ、沖縄の長寿神話が崩れた象徴的な出来事として語られている。
1980・1985年
男性の平均寿命、全国1位。女性も1位の常連で、沖縄は「長寿県」の代名詞だった。
2000年
都道府県別生命表で、男性の順位が一気に26位へ転落。「26ショック」として全国的に報じられた。
2010年
男性30位。女性もついに1位から3位(87.02年)へ後退し、長年守ってきた首位を明け渡す。
2015・2020年
男性36位→43位(80.73年)。女性も7位→16位(87.88年)まで下がり、下落は止まっていない。2020年の全国1位は滋賀県(82.73年)、最下位は青森県(79.27年)。
要因としてよく挙げられるのは、戦後米軍統治下でファストフードや洋食が早くから広まったこと(沖縄で最初のファストフード店は1963年開業)、さつまいもや野菜中心の伝統的な食生活から肉中心の高カロリー食への転換、自動車依存による運動不足など。働き盛り世代(20〜64歳)の脳出血・急性心筋梗塞・肝疾患による死亡の多さが、順位低下の背景として指摘されている。
今回のデータでも、沖縄のスポーツ行動者率(65.8%)は全国平均を上回っている。それでも健康寿命は全国平均を1年以上下回ったままだ。運動習慣だけでは、崩れた長寿神話を取り戻せていない。
スポーツの日について
今年のスポーツの日は10月12日(月)。もともとは「体育の日」という名前で、1964年の東京オリンピック開会式(10月10日)を記念して、1966年に国民の祝日として制定された。
1964年10月10日
東京オリンピック開会式。
1966年
10月10日を「体育の日」として国民の祝日に制定。
2000年
ハッピーマンデー制度の導入で、固定日の10月10日から「10月の第2月曜日」に変更。
2020年
2020年東京オリンピックに合わせ、名称を「体育の日」から「スポーツの日」に改称。同年は特例でオリンピック開会式予定日の7月24日に、延期となった2021年も新開会式日の7月23日に、それぞれ一時的に移動した。翌年からは通常の「第2月曜日」ルールに復帰している。
10月10日が祝日に選ばれた理由として「晴れの特異日(統計的に晴れやすい日)だから」という説がよく語られる。ただし気象データ上は10月15日の方がわずかに晴天率が高いとする資料もあり、根拠としては広く信じられているものの、気象学的に厳密に実証された話ではないようだ。
データと方法について(正直に)
- スポーツ行動者率
- 総務省統計局「社会生活基本調査」令和3年(2021年)、第84-2表「男女,スポーツの種類別行動者率(10歳以上)」の総数(全スポーツ種目のうち、過去1年間に少なくとも1種目を行った人の割合)。複数種目を行う人がいるため、個別種目の行動者率の単純合計ではない。都道府県別の信頼区間は公表されていないが、サンプルサイズは各県2,700〜6,200人程度。
- 健康寿命
- 厚生労働省「健康寿命の令和4年値について」(健康日本21(第三次)推進専門委員会、2024年12月公表)の「日常生活に制限のない期間の平均」、男女平均。国民生活基礎調査と簡易生命表をもとに算出された推計値であり、都道府県間の数値差には95%信頼区間の幅があるため、隣接する県同士の数値差(0.1〜0.2年程度)は統計的に有意でない場合がある。
- 競技別の行動者率(ご当地スポーツ事情)
- 同じく社会生活基本調査 第84-2表より、種目別の行動者率(総数)を都道府県間で比較。サンプルサイズが小さい種目(柔道など)は参考値として扱い、本文では比較的サンプルの大きい種目に絞って紹介した。
- 沖縄の順位(26ショック・その後の推移)
- 厚生労働省「都道府県別生命表」各年版(平均寿命、男女別)。2000年・2010年・2015年・2020年の全国順位は、同生命表の公表値および報道(琉球新報ほか)をもとにした。2020年値は2022年12月公表。
- スポーツの日の沿革
- 1966年の体育の日制定、2000年のハッピーマンデー制度導入、2020年のスポーツの日への改称、2020・2021年の特例日移動は、いずれも内閣府・祝日法改正の経緯として広く報じられている内容。「晴れの特異日」説は、根拠として頻繁に引用されるが気象学的に厳密な実証がある訳ではない、という点も合わせて紹介した。
- 相関について
- 本ページで計算した相関係数は、2つの統計の関連の強さを示すもので、因果関係を証明するものではない。運動習慣と健康寿命の間には、所得・医療アクセス・食生活・就業形態など、多くの交絡因子が存在しうる。
- 出典
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社会生活基本調査(総務省統計局)
健康寿命の令和4年値について(厚生労働省)